若い頃はいろんなバイトをやったものだ。
その中でも、一番の「変なバイト」といえば、美大生の頃に2ヶ月ほど働いた
「美術教材の研究開発」という名目のバイトだろう。
大学の掲示板に、
「美術教材の研究開発 時給1500円 交通費支給 食事付き 週1・2回でOK」
と書かれていたのを見つけて、
面白そうだし、時給いいし、ご飯も食べれるし、と飛びついたのでした。
で、バイト初日。
地図を見ながら、たどり着いたのは一件の民家。
庭には、なぞの人形や謎の機械などが無造作に放置してある。
入るのを躊躇してしまう、怪しさ満点のゴミ屋敷風の民家。
・・・これはあやしい・・・
帰ろうかな。でもせっかく来たのだしな。とりあえずピンポン押してみた。
出てきたのは派手な花柄のハンテンを引っ掛けた、ぐしゃぐしゃの長髪のシワシワのおじいさん。
今まで見たこともない、不思議な出で立ちの老人。
そして中には5〜6人の女学生たち。
どうも女の子たちは、みんなアルバイトの子たちらしい。
謎の老人がここの社長で、
小学校などの図工の材料などを考案して、教材屋さんにアイデアを買ってもらう、
そういう仕事をしているらしい。
わたし、何をしたらよいでしょうか。と聞いてみると、
「ほんじゃ、とりあえず、風呂あろうといてや。」
え???風呂あらいですか???
よく見ると、他の女の子たちも、洗濯したり、食事を作ったり、布団を干したり
社長を病院に連れて行ったりしている。
あれ????
一番慣れた感じのテキパキした女学生に聞いてみた。
私「あの、ここのバイトって、一体どういうバイトなんでしょうか・・・」
テキパキ女学生「主に、○○さんの身の回りのお世話して、たまに、教材の見本を作ったりもすんねん」
私「こんなに時給よくて、こんなにたくさんの人を雇って、成り立つんですか???」
テキパキ女学生「なんかしらんけど、社長めっちゃお金持ちやねん。」
それから、1週間に1日のペースで、風呂あらいやら、昼ご飯作りやら、
断捨離のお手伝いやら(押し入れから昭和のエッチな本とか出てきて大変だった)
まったく美術教材と関係ないお仕事をした。
ちなみに断捨離しても、老人が次々と怪しい古道具やら、落ちている人形やら拾ってくるので
片付けても片付けてもまったく片付かない。
謎の老人は、特に研究開発的なことをしてる様子はなく、
女学生に囲まれて、あれこれ指示を出して世話をやいてもらって
ハーレム的な状態を満喫している、ただそれだけに見えた。
でも時々、教材屋さんが来て、ものすごく恐縮した様子でペコペコと社長に頭を下げたり、
社長にアドバイスを求めたりしていたので、ただの怪しい老人じゃないのかもしれないな・・・
と思ったりもした。
でも、結局2ヶ月の間、怪しい老人が、すごいところを見せてくれることもなく。
私は作った食事に文句をつけられたのに腹が立ったのと、
ハーレム状態の一部であることにも嫌気がさしていたし、
なんで仕事してない風な人が、女の子はべらせて成り立ってるのかわかんなくてモヤモヤしたし、
テキパキ女学生となぞの老人との間の、
なにやら生暖かい感じのする雰囲気にもぞわっとしていたので、
高給には後ろ髪をひかれたけど、仕事を辞めることにした。
なにしろあの頃の私は、日の当たる場所しか知らないし、
見たいものしか見たくない子どもだったのだった。
あの大阪の隅っこの、謎めいた一軒家の、表や裏のあれやこれやを、
もっとおもしろがって探って見てもよかったのかもしれない。
もったいなかったなあ。今となっては、そう思う。
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